腱鞘炎とは
手首や手指を酷使すると腱と腱鞘の間の摩擦による負担が蓄積して炎症を引き起こし、腱鞘炎を発症します。手は複雑で繊細な動きが可能なことから、手首や手指には多くの腱や腱鞘が存在し、腱鞘炎を発症する部位も多岐に渡ります。
腱鞘炎の中でも、手のひらや指の付け根に起こりやすいばね指、手首の親指側部分に生じるド・ケルバン病の発症が多い傾向があります。腱鞘炎が発症しやすいのは更年期や周産期の女性とされており、他に仕事で手を酷使する方の発症も多くなっています。
ばね指の原因と治療
指を伸ばそうとした際に、一度引っかかってから勢いよく動く症状を起こす腱鞘炎です。動きの特徴がバネに似ていることからばね指と呼ばれています。親指・中指・薬指に生じることが多く、放置していると関節が硬くなって動かしにくくなる関節拘縮を起こします。
関節拘縮は指先から2番目の関節に起こることが多くなっています。関節拘縮は日常生活に様々な支障を生じる症状であり、治りにくい傾向がありますので、早めに受診してしっかり治すことが重要です。
ばね指の主な症状
- 指を動かそうとすると引っかかってから勢いよく動く
- 指を曲げる際に痛む
- 指がうまく伸びない
- 関節が動きにくい
ばね指の原因
指を曲げる腱は、親指には1本、人差し指・中指・薬指・小指にはそれぞれ2本ずつあります。こうした腱は、靱帯性腱鞘というトンネルの中を通っていますが、指を酷使していると腱と腱鞘の間の摩擦による負担が蓄積して炎症を起こします。炎症によって腱鞘が分厚くなり、腱がさらに通りにくくなって摩擦による負担が増え、悪化するという悪循環を起こしやすく、早期の適切な治療が重要です。
ばね指の診断・治療
問診、触診、超音波検査、レントゲン検査などを行います。糖尿病やリウマチをお持ちの方は、複数の指に起こりやすいことから、症状が現れている指以外のばね指症状も確認します。
検査結果をもとに、他の疾患との鑑別に注意しながら、診断します。
ストレッチや薬物療法、超音波(エコー)ガイド下注射などの保存療法を行いますが、十分な改善が得られない場合や再発を繰り返すケースでは手術を検討します。腱鞘の上を1cm程度切開して行われる手術です。
ド・ケルバン病(ド・ケルバン腱鞘炎)の原因と治療
ド・ケルバン病は、手首に起こる腱鞘炎です。手首の親指側に腫れや痛みを起こし、親指を動かすと強い痛みを起こすことで日常的な多くの動作に支障が及びます。更年期や周産期の女性に多く発症し、仕事で手を酷使する方は発症リスクが高くなります。
ド・ケルバン病の症状
- 手首の親指側の腫れ
- 親指の動かしにくさ
- 親指を動かした際の強い痛み
- 日常的な動作ができない
ド・ケルバン病の原因
親指を伸ばす腱は3本あり、そのうち長母指外転筋腱と短母指伸筋腱の2本が手首の親指側を通っています。この2本の腱が通る靱帯性腱鞘に炎症が起こって腱の動きが妨げられ、痛みなどを生じています。
ド・ケルバン病の診断・治療
問診、触診、超音波検査、レントゲン検査などを行います。触診では、手関節の親指側を押したときに痛みがあるかどうか、また親指と一緒に手関節を小指側に曲げたときに痛みが増すかどうか(フィンケルシュタインテスト)、といったことを確認します。超音波検査で腱やそのまわりにむくみ・腫れを確認することができます。
問診、画像検査、フィンケルシュタインテストの結果から、診断します。
軽度の場合には、サポーターなどで安静を保ち、湿布や塗り薬などを処方します。こうした保存的療法では十分な効果を得られない場合や、再発を繰り返す場合、すぐの改善を希望される場合には、超音波ガイド下に腱鞘内に局所麻酔薬やステロイド剤の注射を行います。注射を数回行っても改善しない場合は、手術を検討します。
腱鞘炎になりやすい人の特徴
- 文字を書く・絵を描く
- 手芸やDIY、アートなどの細かい手作業
- ピアノなど楽器演奏
- パソコンの入力
- ラケットを使うスポーツ
上記のようなことを仕事として、また趣味としてよく行うと手指や手首が酷使されて腱鞘炎を起こしやすくなります。
また女性は女性ホルモンであるエストロゲンが減少すると腱にダメージを受けやすくなるとされており、更年期から閉経後、妊娠・授乳期の方は腱鞘炎発症のリスクが高いと考えられています。
他にも糖尿病や関節リウマチなど、炎症を起こしやすく治りにくい疾患がある場合にも腱鞘炎になりやすい傾向があります。
腱鞘炎の予防
パソコン
机と画面やキーボードの角度・位置・高さを調整し、イスやアームレストなど、手首や手指にかかる負担をできるだけ軽減する工夫をしましょう。
他の仕事や趣味の作業でも、作業台の高さや角度、アームレストなどで工夫することで手首や手指への負担を軽減することは有効です。
スポーツ
手首に負担をかけないフォームを身に付けることが重要です。当院では、スポーツのフォーム改善などについても丁寧に指導しています。
疾患のコントロール
糖尿病や関節リウマチがある場合も、適切な治療でコントロールできれば腱鞘炎のリスクも低減できます。しっかり治療を受け、悪化させやすい生活習慣に気を付けましょう。
腱鞘炎になってしまったら
症状がある時には、患部の安静を保つことで炎症の改善を促すことができます。痛みが出る部分を極力使わないよう注意してください。サポーターや、テーピングなどで固定するのも有効です。
炎症による腫れや熱感がある場合にはアイシングで冷やしましょう。冷やし過ぎを防ぐためにアイシングは20分で切り上げてください。2時間経過して熱感や腫れが残っている場合には再度20分のアイシングを行ってください。