肩の痛み~代表的な疾患~
いわゆる”四十肩・五十肩”(肩関節周囲炎)
症状
五十肩は、40~50代で最も多く発症します。肩関節が痛み、関節の動きが悪くなります(運動制限)。
動かす時に痛み(運動時痛)がありますが、あまり動かさないでいると肩の動きが悪くなってしまいます。髪を整えたり、服を着替えることが不自由になることがあります。
夜中にズキズキ痛み、ときに眠れないほどになることもあります。
五十肩は経過に伴い、症状が変わっていきます。症状の軽減や早期回復、悪化の予防のためには、経過に合わせて肩の安静と運動療法を適切に使い分けることが大切です。
急性期(発症から2週間程度)
急性期は痛みが強いものの、無理をすれば肩を動かすことができます。痛みは、肩を動かしたときだけでなく、安静時や就寝時にも現れます。痛みを伴う動作は無理に行わないようにしましょう。
慢性期(6か月程度)
慢性期は痛みは軽減しますが、肩が動かしにくくなります。無理に動かそうとすると痛みが出ます。痛みが軽減してきたら、硬くなった肩関節をほぐすために肩の運動を行い、少しずつ肩の可動域を広げていきます。
回復期(1年程度)
回復期は徐々に痛みが解消していき、次第に肩を動かしやすくなります。しかし、数年かかる場合や、症状が残ることもあります。この時期には、肩の可動域や低下した肩の筋力を取り戻すため、積極的に肩の運動を行います。
原因と病態
中年以降、特に50歳代に多くみられます。加齢によって肩周辺の組織がもろくなり始めること、一方で仕事やスポーツなどまだまだ活発に体を動かす人が多いこと、肩関節は動く範囲が大きいために骨以外の組織が引っ張られやすいことなどがあります。これらの要因が重なることが、この年代におこりやすい理由と考えられています。
関節を構成する骨、軟骨、靱帯や腱などが老化し肩関節の周囲組織に炎症が起きることが主な原因と考えられており、肩関節の動きをよくする袋(肩峰下滑液包)や関節を包む袋(関節包)が癒着するとさらに動きが悪くなります(拘縮または凍結肩)。
五十肩の病変が特に起こりやすい部位は4か所あります。1つは肩の前側にある肩甲下筋の腱と上側にある棘上筋との隙間である腱板疎部、そしてもう1つは腱板疎部とつながっている上腕二頭筋長頭腱の腱鞘です。この2か所に炎症や拘縮が起こると、背中に手を回したり、髪を洗ったりする動作がしづらくなります。また、上腕骨のボールと肩甲骨の受け皿を包んでいる関節包の下側や、腱板の上側にある滑液包に炎症や拘縮が起こると、腕を上げにくくなります。
特に、糖尿病がある人は、そうでない人と比べて五十肩になりやすく、治りにくいことがわかっています。糖尿病により血糖が高い状態が続くと、関節包などを構成しているコラーゲンが硬くなりやすいためと考えられています。糖尿病のある人は五十肩の発症や悪化を防ぐためにも、食事や運動、薬などで血糖を適切にコントロールすることが重要です。
診断
圧痛の部位や動きの状態などをみて診断します。肩関節におこる痛みには、いわいる五十肩である肩関節の関節包や滑液包(肩峰下滑液包を含む)の炎症のほかに、上腕二頭筋長頭腱炎、石灰沈着性腱板炎、肩腱板断裂などがあります。
これらは、超音波検査、X線(レントゲン)検査、MRIなどで診断します。
※MRIによる診断が必要な場合は適切な医療機関をご紹介いたします。
予防と治療
自然に治ることもありますが、そうでない場合放置する関節が癒着して動かなくなることもあり日常生活に支障をきたします。
発症~2週間程度の急性期は、主に痛みを和らげる治療を行います。消炎鎮痛薬ののみ薬や貼り薬などを使い、痛みが強い場合は、患部に注射を行います。また、痛みによる筋肉の過度な緊張をほぐすため、温熱療法などを行う場合もあります。
五十肩の慢性期や回復期は、主に肩の動きを回復させる治療を行います。
関節包や滑液包の中にヒアルロン酸を注射したり、運動療法(関節可動域訓練、インナーマッスルを鍛える訓練、痛みを和らげるための生活習慣の指導など)が適しています。これらの治療を行っても回復が十分でない場合は、鏡視下関節授動術などが検討されます。関節鏡で肩関節の中を見ながら関節包を切開します。
セルフケア
腕は意外に重く肩への負担となりますので、肘掛けやデスクに腕を置くなど、腕の重みをできるだけ肩にかけないようにしましょう。症状が重い場合は三角巾などを使って肩の安静が保てるようにするのも有効です。
腕を身体に沿わせて下げる気を付けの姿勢は、腕の全ての重みが肩にかかって大きな負担になります。肘を曲げて脇を開くことで負担が少し軽減されます。
就寝時も、腕の重さが肩にかからないよう、仰向けの場合は脇にクッションなどを置いてその上に腕を乗せ、横向きの場合は抱き枕を使いましょう。
うっかり肩を大きく動かしてしまわないよう、慎重に動くことを心がけてください。
肩関節前方不安定症(反復性肩関節脱臼)
肩関節の前方への脱臼や外れそうになる亜脱臼を繰り返します。背中に手を回すなどの動作のたびに脱臼や亜脱臼を起こして痛みを生じます。多くは外傷性の脱臼をきっかけに生じます。徒手検査で肩の不安定性を確かめ、超音波検査やX線検査で骨折がないかを確認します。骨軟部組織の損傷が疑われる場合には、CT・MRI検査などを行います。
※MRIによる診断が必要な場合は適切な医療機関をご紹介いたします。
主な症状
肩を動かすのに不安感がある、すぐに肩関節が脱臼してしまう、何度も脱臼や亜脱臼を繰り返してささいな動作でも脱臼するようになった、寝返りで脱臼し目が覚めたなどの症状を起こします。
肩腱板損傷・断裂
腱板は四つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)から構成され、インナーマッスルと呼ばれる重要な関節の構造体です。肩関節を最も内側で関節を動的に支持する重要な機能を有しています。その腱板を断裂すると腱板断裂と呼ばれます。
断裂の原因として
- 加齢:60歳を過ぎると徐々に生じてくる。
- 外傷:転倒や衝突により腕の強い捻転強制や打撲で生じる。
- スポーツ障害:テニスや野球、バレーボールやウエイトトレーニングなど肩を酷使することで生じる。
が、上げられます。
小さい断裂であれば疼痛を引き起こし、時間経過とともに大きな断裂になると筋力低下を自覚します。夜間に痛みを生じることが比較的多く、それが強ければ睡眠障害となり心身の健康を害すこともあります。一般的に"五十肩"としてのみ扱われ疼痛に対する対症療法しか施されない場合もあります。
診断
肩関節の可動痛(動かすと痛い)、引っかかり(インピンジメント:動作の途中で引っかかる)が特徴的な症状です。症状が進行すれば筋力低下が生じ、目の高さに腕を挙上すると疼痛や脱力を自覚する場合もあります。適切な病歴の問診と診察が大切です。
画像診断では外来での超音波検査は迅速にでき有用ですし、MRI検査でより詳細な評価を行います。
※MRIによる診断が必要な場合は適切な医療機関をご紹介いたします。
治療
保存療法
痛み止めの内服や注射、運動療法が行なわれます。
注射はステロイドと局所麻酔薬、ヒアルロン酸などを肩峰下滑液包内に注射します。腱板のすべてが断裂することは少ないので、残っている腱板の機能を賦活させる腱板機能訓練は有効です。
手術療法
保存療法で肩関節痛と運動障害が治らないときは、手術を提案いたします。多くは内視鏡を用いて腱板断裂部の修復を行います。縫合糸と人工骨でできたアンカーを用います。
腱板断裂後変形性肩関節症
腱板断裂を放置すると、腱板は奥に引き込まれ修復が難しくなります。そして肩関節の変形が生じ、慢性的な疼痛と筋力低下が生じます。
自分で腕を挙上できなくなってしまった患者さんは以前は回復が不可能でしたが、近年リバース型人工関節の開発により、疼痛の緩和と挙上動作の回復が得られるようになってきました。
肩石灰性腱炎
腱板内に沈着したリン酸カルシウム結晶が炎症を起こす疾患です。突然、肩の強い痛みを生じ、肩を動かすことができなくなります。発症は40~50代の女性に多く、はっきりとした原因はわかっていません。
保存療法で改善するケースがほとんどを占めますが、沈着した石灰が硬くふくらんで強い痛みや可動制限が起こる場合には手術を検討します。
主な症状
突然、激しい肩の痛みを生じ、夜中に目が覚めてしまうこともあります。肩関節を動かせなくなり、腕が上がらなくなり、生活に様々な支障を生じます。