首の痛み~代表的な疾患~
いわゆる"むち打ち症"
交通事故やスポーツなどで首に突然強い衝撃を受け、靭帯や筋肉が損傷している状態です。損傷と神経の刺激、圧迫などにより、痛み、しびれ、めまい、耳鳴りなど様々な症状を起こします。
追突や衝突などの交通事故によってヘッドレストが整備されていない時代に首がむちのようにしなったために”むち打ち”と呼ばれていましたが、未だに医学的傷病名と混同して使用されることがあります。
受傷原因や外傷の程度により症状はさまざまで、治療方法や期間も多岐にわたります。医学的な傷病名ではなく、外傷性頚部症候群(頚椎捻挫・頚部挫傷)、神経根症(頚椎椎間板ヘルニア・頚椎症性神経根症)、脊髄損傷など様々な病態を含みます。
神経学的所見を含む診察所見および病状によってレントゲン撮影やMRIなどの精査が必要であることから、整形外科医師の専門的診断を受けることが必要です。
※MRIによる診断が必要な場合は適切な医療機関をご紹介いたします。
主な症状
首が痛い、首を回せない、首を動かせない、強い肩こりがある、手がしびれる、めまい・耳鳴りなど、症状は多岐に渡ります。
頚椎症
加齢によって頚椎の椎間板の膨隆や骨のトゲが形成され、神経が圧迫されている状態です。上肢につながる神経根が刺激されたり圧迫されたりして生じる頚椎症性神経根症と、脊髄が圧迫される頚椎症性脊髄症に分けられます。
頚椎症性神経根症の症状
中年~高齢の人で肩~腕の痛みが生じます。腕や手指のシビレが出ることも多く、痛みは軽いものから耐えられないような痛みまで程度はそれぞれです。
一般に頚椎を後ろへそらせると痛みが強くなりますので、上方を見ることや、うがいをすることが不自由になります。上肢の筋力低下や感覚の障害が生じることも少なくありません。
原因
加齢変化による頚椎症(椎間板の膨隆・骨のとげの形成)の変化によって、脊髄からわかれて上肢へゆく「神経根」が圧迫されたり刺激されたりして起こります。 遠近両用眼鏡でパソコンの画面などを頚をそらせて見ていることも原因となることがあります。
診断
腕や手のしびれ・痛みがあり、頚椎を後方へそらせると症状が増強し、X線(レントゲン)で頚椎症性変化を認めることで診断します。MRIで神経根の圧迫を確認しにくい場合もありますが、骨棘による椎間孔(神経根が出ていく孔)の狭窄がわかる場合もあります。
※MRIによる診断が必要な場合は適切な医療機関をご紹介いたします。
予防と治療
神経根の圧迫があっても症状の緩和や消失を期待できる疾患です。症状が出ないように頚椎を後方へそらせないようにし、鎮痛薬などの内服薬処方や超音波(エコー)ガイド下注射が適応となります。治るまでには数か月以上かかることも少なくありません。
筋力低下が著しい場合や、強い痛みで仕事や日常生活が障害されている場合は、手術的治療を提案する場合もあります。
頚椎症性脊髄症の主な症状
ボタンのかけ外し、お箸の使用、字を書くことなどが困難になったり、歩行で脚がもつれる感じや階段で手すりを持つようになるなどの症状があらわれます。手足のしびれも生じてきます。
原因
加齢変化による頚椎症(椎間板の膨隆・骨のとげの形成)の変化によって、脊柱管(骨の中にある脊髄の通り道)内で脊髄が圧迫され症状が出ます。
日本人は脊柱管の大きさが欧米人に比較して小さく、「脊髄症」の症状が生じやすくなっています。
診断
症状と四肢の反射の亢進などの診察所見があり、X線(レントゲン)所見で頚椎に加齢に伴う変化(頚椎症性変化、変性)を認め、MRIで脊髄の圧迫を認めることなどで総合的に診断します。
中年以降ではX線での頚椎症性変化はほとんどの人に見られますし、MRIでの脊髄圧迫所見も症状がない場合でも見られますので、検査所見だけで診断することはできません。
※MRIによる診断が必要な場合は適切な医療機関をご紹介いたします。
予防と治療
転倒などの軽微な外傷で四肢麻痺(脊髄損傷)をきたす可能性がありますので、転倒しないように注意したりスポーツの制限が必要です。
一般的に日常生活に支障があるような手指巧緻運動障害がみられたり、階段昇降に手すりが必要となれば、手術的治療が選択されます。
頚椎椎間板ヘルニア
背骨をつないでクッションとしても働いている椎間板が変性して断裂し、中の髄核が飛び出てしまう疾患です。飛び出た髄核が神経根を圧迫する神経根症と、脊髄を圧迫する脊髄症に分けられます。
神経根症の主な症状
首の後の痛みやしびれ、頭痛、首から肩にかけての痛み・しびれ、腕や手指の痛み・しびれなどを生じ、多くの場合は片側に症状が現れます。
脊髄症の主な症状
手のしびれ、箸使いなど繊細な手作業が困難になる、足がもつれる、手足がしびれるなどの症状を起こします。
診断
力の入りにくい場所やその程度を調べたり、感覚の異常がないか調べます。頸椎を後方や斜め後方へそらせると腕や手に痛み、しびれが出現(増強)したり、四肢の腱反射の異常などを確認し、診断します。
X線(レントゲン)検査で椎間板の高さが低くなっているのを確認できる場合があります。MRIで椎間板の変性と飛び出し、それによる神経根や脊髄の圧迫を確認し診断を確定します。
※MRIによる診断が必要な場合は適切な医療機関をご紹介いたします。
予防・治療
痛みが強い時期には首の安静保持を心掛け、頸椎カラー装具を用いることもあります。また、鎮痛薬の服用や神経ブロックなどで痛みをやわらげたり、症状に応じて運動療法(リハビリテーション)を行います。
これらの方法で症状の改善がなく、上肢・下肢の筋力の低下が持続する場合、歩行障害・排尿障害などを伴う場合は手術的治療を提案します。
外傷性頚部症候群
症状
交通事故などで頚部の挫傷(くびの捻挫)の後、長期間にわたって頚部痛、肩こり、頭痛、めまい、手のしびれ、などの症状がでます。X線(レントゲン)検査での骨折や脱臼は認められません。
原因と病態
受傷時に反射的に頚椎に対する損傷を避ける防御のための筋緊張が生じ、衝撃の大きさによっては筋の部分断裂や靭帯の損傷が生じています。
受傷後しばらくの間(1~3か月)は局所に痛みが生じますが、この期間に局所を安静にする習慣がつけば痛みが長引く原因となります。骨折や脱臼がないのに長期にわたって頚椎のカラー装着を行うと、頚部痛や肩こりが長期化する原因となります。
診断
X線・MRIとも年齢に応じた変性変化を認めますが、外傷との関係はありません。骨折や脱臼がないことは確認が必要です。
※MRIによる診断が必要な場合は適切な医療機関をご紹介いたします。
予防・治療
骨折や脱臼がなければ、受傷後2-4週間の安静の後は頚椎を動かすことが痛みの長期化の予防となります。安静期間はできるだけ短い方がよいでしょう。
慢性期には安静や生活制限は行わず、ストレッチを中心とした体操をしっかり行うことが最良の治療となります。
首が痛い場合の治療法
首の痛みがある場合、姿勢や生活習慣を改善することで症状の緩和と再発予防の高い効果が期待できます。当院では、運動療法や物理療法なども組み込んだ治療を行っており、ストレッチやセルフケアなどに関しても丁寧に指導しています。
姿勢の調整
猫背で姿勢が悪いと、胸椎の動きが悪くなり、首に過剰な負担がかかってしまいます。姿勢を矯正するためのストレッチを丁寧に指導し、肩甲骨やせぼねの動きを改善するための運動療法を行います。
また、普段、正しい姿勢を保つためのポイントなどもわかりやすくお伝えしています。
生活の見直し
首の痛みは姿勢の悪さ以外にも、多くの生活習慣が関与して生じています。パソコンやスマートフォンを長時間使っていると同じ姿勢を続けることで首への負担が大きくなります。加えて、忙しくて睡眠や休息を十分にとれていないなどストレスがあると身体は緊張状態が続き、筋肉のこわばりを生じやすくなります。
痛みの緩和につなげられるよう、当院では日常的な動作の注意点など無理なくできる生活習慣の改善についてもわかりやすくお伝えしています。
運動療法
同じ姿勢を続けるなどで首の筋肉が長時間緊張し続けると、頚椎周囲の筋肉がこって固まってしまい、頚椎を圧迫して首の痛みを生じます。首の筋肉を手でやさしくゆるめることで、固まった筋肉がほぐれ、血行が改善して痛みが軽減します。
関節の動きが悪くなっている場合には、関節を調整するために力を加える治療を行います。筋肉と関節、双方にアプローチすることで首の状態を正常に戻します。